僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

自分が信じるものを共有したい。その思いは否定しない。

横浜で一人暮らしをしていた時、キリスト教の勧誘に1人の男性がやって来た。断る事のできない性格の俺は、汗だくの彼に麦茶を差し出し、話を聞く事に。夜勤明けで眠かったが、話を聞く。特に面白いことを言うわけでもないが、話を聞く。楽しそうに話す彼は、俺にこう言った。

男性「毎週日曜日、この時間に来ますね」

断る事のできない性格の俺は、はい、と返事をした。彼は約束通り毎週来た。聖書に書いてあるありがたい言葉を来るたびに1つ言う。ほんの5分、いや3分だけのために毎週通った。相変わらず、楽しそうに話す。雨の日も、風の日も彼は来た。

そして、友一とりょうがが来た日も。

男性「こんにちは」

来たか、ノックとともに元気良く挨拶をする。俺にとっては興味のない話であるが、彼はいつも楽しそうに話す。そんな楽しそうな彼に、否定的な態度を取るのも気が引けるから断れないっていうのもあるのかもしれない。自分が信じているものを、共有したい。それは誰もが思うことであろう。きっとこの団体、いやこの人も、そうに違いない。神になった気分で、寛大な心で受け入れてあげようではないか。
重い腰を上げようとする。しかしそれを友一が手で止め、こう言う。

友一「まぁゆっくりしてて!」

果たしてここをどこだと思っているのか。自分の家かのようにくつろぐ友一とりょうがを見て、ここは自分ちではないのかもしれないと錯覚すら覚える。

りょうが「誰だこんな朝早くに」

普通の疑問を抱くりょうがに説明をする。

りょうが「ふーん。めんどくさ」

さぞ興味なさそうに携帯に目を戻す。風通しをよくするためにありとあらゆる扉、窓を開けていたため、はっきりと会話が聞こえる。

男性「耕平さんの、お友達ですか?」

友一「そうです!あの、どうしたんですか?耕平の友達ですか?」

若く見ても30代後半の男性に大学生の俺が友達だとなぜ思ったのか。そりゃいるだろう。年の離れた友達くらい。でも歳上の男性が俺をさん付けで呼んでる時点で、友達ではない。察してくれ。

男性「はい。そうです」

そうですじゃねーよ。まずお前名前聞いてねーよ。友達なら自己紹介からだろ。いきなりキリスト教の話し始めたじゃねーかよ。

友一「耕平!友達来たよ!」

玄関から大きな声が聞こえてくる。そんな大きな声を出さなくても最初から聞こえている。

友一「どうするー?いない、って言っとく!?」

何それ。居留守のつもり?めっちゃ俺の名前呼んでるけどお前それ意味ない。もういること知らせてる。

りょうが「いないって言っといてやー!」

やめろ。俺が返事したみたいだろ。急いで立ち上がり、玄関へ向かう。

男性「あ、こんにちは」

耕平「すいません、トイレ行ってました」

友一「どうする?いないって言う?」

もういるじゃん。もうお前の目の前で会話したじゃん。恥ずかしいからやめてくれ。

りょうが「いないって言っといてやー!」

だからいるって!

こうして、玄関に4人集合した。どちらから先制攻撃を仕掛けるのか。

男性「では、今日は3人にこの言葉を聞いてもらいます」

聖書をパラパラとめくり、咳払いをする。さて、と男性が言うのに被せ、りょうがが叫ぶ。

りょうが「ザケル!!」

やめろ!ガッシュベルネタやめろ!ましてやお前が今手に持ってるのは本じゃないおにぎりだ。

男性「ザケル、ですか…」

りょうがの奇行に一瞬沈黙が生まれたが、男性は聖書に視線を戻し言う。

男性「ザケルガ!」

なんでやねん。ザケルより上位の技使うなや。お前遊びに来たんなら帰れ。ただでさえ夜勤明けで眠いんだからさっさと用を済ませて帰りやがれ。俺の家だというのにも関わらず、圧倒的なアウェイ感が漂う。

男性「ごほん、ではこの言葉を…」

りょうが「ザケル!」

もう良いから。わかったから。

男性「ザケルガ!」

うっせえ!帰れ!

この流れも勧誘のためには必要なのだろうか。いや、そもそもこんな流れはあるのだろうか。再び聖書に目を移し、言う。

男性「では、良いですか?」

りょうがは満足したのかもう興味なさそうな顔をしている。

男性「僕もふざけるためにここに来たのではないので」

そう、彼はキリスト教の信者だ。自分の信じているものを共有したい。そう思っているんだ。いつも楽しそうに話すが、今日は一段と楽しそうだ。友一とりょうががいるからだろうか。より多くの人に話を聞いてもらえるからだろうか。

そうですよね、と相槌を打つ前に付け加えて言う。

男性「ザケルだけに…」

もうお前出禁。