僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

障害を持つ人たちとサッカー



大会まで残りわずか。そのタイミングで、顧問の先生から告げられるイベント。当時1年の俺はそれが毎年恒例であると、この時初めて知る。障害を持つ子供達とサッカーをする。障害者に対しての偏見は、良くも悪くも、ない。特別扱いをするつもりはないということだ。しかしこの大会前、貴重な時間にそのようなイベントがあるなんて正気の沙汰ではない、そう感じた。
故に、いざ当日になり、挨拶を交わしたところで、俺の気分は良いものではなかった。
俺は中学の時にはクラブチームへ所属し、それなりに真剣にサッカーへ打ち込んでいた。高校でももちろん、真剣に取り組みたいと思っていた。1年でレギュラー入りを果たす。故に先輩たちの代で下手な真似をするわけにはいかない。そのため、1番大切な時期であろうタイミングでこのイベントは不快感しかなかった。試合前にちょっと練習を頑張れば上手くなるなんてことはない。だが、気持ち的にも1番高ぶる時期であり、チームとして集中力を高める時期である。俺以外にも気分を悪くしている部員は少なからずいた。その理由が俺と同じかはわからない。

まずは二人一組になり、パスをする。簡単に自己紹介をし、球を蹴り合う。俺の相方の名前はタカシ。言う必要はないが、下手くそだ。
緊張が伝わってくる。年齢は俺より2つ3つ下だろう。球を蹴りながら質問をする。しかし声のトーンは低く。

耕平「好きな食べ物ある?」

タカシ「…」

返事はない。

耕平「お母さん好き?」

タカシ「…」

またしても返事はない。緊張してるのだろう。無理もない。なにせ俺だって気分は良くないが、多少緊張している。

耕平「好きな子は?」

この質問にタカシは球を蹴るのをやめ、少しニヤける。

耕平「なんだよ、いるのかよ。もしかして今日来てるの?」

障害者の子達の中にはもちろん女の子もいる。タカシは頷く。
頷き、強く球を蹴る。照れ隠しのつもりか?バレバレだぞ。しかもどこ蹴ってるんだよ。ったく。
俺は部活一本、と言うわけではないが学業にもそれなりに取り組みたいと思っている。故に恋愛なんてくだらない。そんなことをしている暇はない。女を追うなら球や英単語を追う。くそ、俺より青春してるじゃないか。

次のメニューはシュート練習だ。彼ら、彼女らに優先的にやらせるために、必然的に部員の回数は少なり、球拾いに回される。中には盛り上げようと声を出す部員もいるが、俺はそんな気にならない。

シュート練習が終わると休憩だ。蹴り足りない俺は、ゴールに向かって球を蹴る。今までが休憩みたいなものだから体力は有り余っている。そんな俺に、タカシが水を持って来た。1年であったために、水を渡されることはない。渡す側だ。

耕平「ありがとう」
水を受け取り、一口飲む。

耕平「タカシは飲んだか?」
コクリと頷く。そうすると、走ってみんなのいる場所へ戻る。誰かに水を持ってけと言われたのか。いいや、そんな俺思いの部員はいない。自ら進んで持って来てくれたのだ。元の場所戻り、俺に手を振る。ったく子供かよ。軽く手を挙げ返す。

シュート練習が終わると、練習試合だ。無論、球拾いにも人が回る。何人か保護者も来ていて、楽しそうに見ている。練習試合になると、見ていて中々上手いやつもいる。サッカーが上手いと言うより、運動が好きなのだろう。よく走り、よく汗を掻き、マイペースに座る。おいおい試合中に座るかよ。そこで初めて自分が笑ったことに気づいた。
障害者同士の練習試合が終わり、部員の番になる。タカシに水を渡しコートへ入る。
特別感のない普通のゲームだ。部員同士が終わると、次は合同で行われる。タカシが水を持って来て俺に渡す。

耕平「ありがとう」

タカシ「うん!」
やっと喋ったか。肩をポンポン叩き、言う。

耕平「パスしてやるから点取れよ」

タカシ「頑張ってね」
何言ってんだよこいつ。お前が頑張るんだよw再び笑う。タカシも少し嬉しそうだ。彼らは普通の人より何かが足りない。でも、その足りない部分を違う何かで補って生きている。タカシは笑うと楽しそうだ。なんて言うか、俺の友達にもこんな無邪気な表情をする大バカがいる。きっとタカシも大バカなんだろうな。それは違うだろ。また笑う。しかしこの笑いはただの変人だ。

耕平「好きな子にかっこいいところ見せてやれ」
そう言い、共にコートへ入る。相手が相手だけに、部員のみんな、普段よりも肩の力を抜いてプレーしている。そりゃ突然だ。だが俺は真剣だ。いくら練習試合とは言え、負けるのは嫌いだ。それにタカシにパスをすると約束した。

だが思った以上にチャンスが少ない。タカシが下手くそなのはもちろんだが、いくら手を抜いてるとは言え、先輩たちのDF陣は俺がドリブルで突っ込むと本気で止めにかかる。プライドだろうか。それに俺のポジションはボランチ、守備型のMFなためにドリブルで切り込むなんて柄じゃない。それでも幾度か決定的なパスを送る。しかしそれを簡単に無駄にするタカシ。バカヤロウ!と心の中で叫ぶ。シュートを外すたびにタカシは嬉しそうに、同時に少し悔しそうな表情をする。なんだろう、いくら遊びでも負けたくないってやつ、今思えばそんなイケメンの友達がいるんだよな。
そもそもシュートたるものがなってない。しかし説明しようにも相手は素人。難しい。

耕平「もっと気合入れろ!」

タカシ「うん!」
まだまだやる気を見せてくれて少し安心する。何度も何度も挑戦する。普段は我が道まっしぐらの先輩たちも何かを察してか俺にパスをくれる。

なんつーか、楽しい。

なんだろう。久しぶりに楽しい。そもそも俺はなんでサッカーをやってるんだろう。そりゃあ好きだからだろう。自問自答して振り返る。中学時代は毎日地獄のように走らされ、高校では先輩に任せっきりのプレーも少なからずある。それは共通して、勝つためである。俺は好きなサッカーを勝つためにやっていた。そりゃあ負けたくない。勝った時は嬉しい。でも、それ以前に、楽しんでいなかったのかもしれない。勝つことの喜びを求めすぎていたのかもしれない。

余計なことを考えていた。時間的にも残り僅かだろう。そのタイミングでDF陣に囲まれる。タカシへのパスはどう考えても無理だ。あいつ呑気かよ!鼻くそ食ってる場合じゃねえぞ!ドリブルで抜く自信もない。

先輩「耕平」

後ろから部長の声がする。いつもの調子の声。名前を呼ばれるだけで幾度となく助けられてきた声。もう賭けるしかない。部長へボールを渡し、俺も走る。ボールを受け取るといとも簡単にDF陣を抜いていく。どんだけだよ。なんなんだよこの人。感心している間にキーパーもするりと抜く。

バケモノだ。

この人ほど上手い選手を今まで見てきただろうか。試合になればどのチームも2人マークを当てる。2人で良いのか?そう思わせるほどのプレイヤーだ。悔しいが手も足も出ない。キーパーを簡単に交わしたところでタカシへパスをする。

ドスの効いた声で打て!と言う。言われなくても。といった調子で思いっきりシュートを打つ。無人のゴールへ球が入る。

タカシは両手を挙げ喜ぶ。保護者達からも拍手が沸く。同時に試合終了の笛が鳴る。良かった。タカシが点を決めていなければ土下座する覚悟でいた。

耕平「ありがとうございます」
部長にお礼を言う。

部長「何が」
無表情で言う。くっそ、どこまでイカしてんだよ。コートの外へ出ると、すぐにタカシが水を持ってくる。

耕平「タカシは飲んだか?」

タカシ「シュート決めた!」
質問に答えろよwそういや質問とは全く違う答え方をする今も童貞の友達もいたな。

そんなこんなでそのイベントは終了した。最後の挨拶の時、障害者たちの先生らしき人が言う。

「彼らは試合が近い」

その言葉を聞いて、みんなから頑張ってと激励を受ける。本当にそう思ってるのかよ。と、思うトーンだ。

タカシ「シュート決めてね」
タカシからも激励を受ける。相変わらず、感情がこもってない。今思えば俺の友達でもいるんだよな。淡々と感情を込めないで発言する社畜が。

タカシ「ありがとう」

耕平「何が?」

タカシ「パス!」
俺じゃないけどな。まぁいいか。

大会前に大切なものを教えてもらった。それは言葉で言い表すならば、楽しむことである。だが、もっと複雑で大切なものを教えてもらった気がする。別れの挨拶を済まし、解散した。

楽しむ、か…。今の俺にとっては難しいことかもしれない。勝ちに拘るこの体質が邪魔をする。だがあの無邪気に楽しむ彼ら、彼女らを見ていると楽しめそうな気がしてきた。大切な大会だ。だからこそ、楽しまなければならない。

そして待ちに待った大会当日、高校生活では初となる公式戦。先輩に聞かれる。

先輩「お前足どうした」

耕平「可愛い女の子に見惚れてたら電柱に足ぶつけて小指骨折しました」

俺の高校生活初の公式戦は、足の小指の骨と共に見事に粉砕した。