僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

ゴキブリが現れた

外に出るだけで汗を掻く時期、いつものように泰一の部屋でくつろぐ。快適な部屋だ。泰一の母親がジュースを持って来てくれる。ごゆっくり、と笑顔で言い、仕事に向かった。いただきます!と友一。漫画を読んでいる泰一、ゲームをするりょうがと友一。暑い夏も寒い冬もよく見る光景だ。泰一の部屋は快適だ。ゲームも漫画もあるし、エアコンもある。パソコンと小説以外何もない俺の部屋とは大違いだ。
そんないつもの光景であるが、1つ違う点があった。俺の視界の隅に触角だけ動かしている、黒い虫がいる。恥ずかしながら俺は虫が苦手である。俺は、ではない。俺たちは、だ。と言うか、この黒い虫が好きな人は少ないだろう。どうやらりょうがも気がついたらしく、目を見開いている。そして指を差し叫ぶ。

りょうが「ゴキブリや!!」
りょうがが叫ぶと、友一は俺の顔を指を差し、

友一「ほんとだ!」

耕平「俺じゃねーよ!りょうがが指差してる方見ろよ!てかどちらかと言ったらお前のが似てるだろ!」
などと言っていると、友一も俺じゃない方のゴキブリに気づいたらしく、ひっ!と声を上げる。女かよ。てか俺じゃない方のゴキブリってなんだよ。俺ゴキブリ認めるのかよ。泰一を見ると絶望的な表情をしている。なにせ他でもない、泰一の部屋に現れたのだ。
一旦、距離を取る。やつはまだ俺たちが気づいたことに、気づいていないようだ。これはチャンスだ。

耕平「泰一、殺虫剤持ってこい」
うちでは猫を飼っているため、殺虫剤は使わないようにしている。むしろ置いていない。しかし泰一はペット疎か彼女すらいない。もっと言えば童貞だ。そんな彼なら殺虫剤を持ってるはずだ。

泰一「ない」
りょうがが泰一を睨む。

りょうが「なんでやねん!」
泰一は落ち着いた口調で答える。

泰一「いいか、東北ではゴキブリは出ないんだぞ」
何言ってるんだこいつは。ここは関東だ。首都圏だ。ゴキブリ会でも大都市だぞ。なのに真顔で言う。自分の部屋に現れたのに真顔で言う。

りょうが「とにかく、動く前に仕留めなければならん」

以前、翔平の家でゴキブリが出た時はゴキブリ駆除を得意とする女友達を呼び、駆除を頼んだ。しかし今回彼女はいない。俺たちだけでなんとかしなければならない。ゴキブリのポジションは天井近くの壁、隅っこにいる。飛ばれたら厄介だ。

りょうが「どうするよ耕平」
ふざける様子はないようだ。さすがの彼らも冗談を言う余裕はないのか。
飛ばれた時のために、身近にある週刊誌を手に取る。動く様子は今のところない。一瞬気が抜けた瞬間、近くの時計の裏からもう1匹のゴキブリが現れた。

りょうが「嘘…だろ…」
絶望的な顔をするりょうが。ラスボスと死闘を繰り広げ、倒した瞬間本当のラスボスが現れた時の表情だ。現実は最初のラスボスすら健在だがな。

友一「どっちが本体なんだ!!!」
両方本体だボケ。大人4人が部屋の隅っこで固まる。圧倒的な存在感を示すゴキブリ2匹に身動きが取れない。

泰一「1つ、作戦を思いついた」

耕平「なんだ、言ってみろ」

泰一「やつらの好物でおびき出す」

耕平「それで?」

泰一「そこで殺虫剤を使う」

耕平「殺虫剤ないんだろ」

りょうが「なら逆に嫌いなものを置いて逃げさせるのはどうよ」

耕平「それで?」

りょうが「逃げてるところに殺虫剤!」

耕平「だから殺虫剤ねえんだって!」
殺虫剤あるなら動いてない今使うわ!動かす必要ねえだろ!冗談で言っているのか本気で言っているのかわからない。だがどちらにしてもバカだということはわかる。そんなことは出会った時から知っているが、改めて感心する。そんな場合ではない。

友一「ねえねえ、思うんだけどさ」
ここで友一がマンボウみたいな顔をして言う。果たしてマンボウみたいな顔とはどんな顔なのだろうか。俺はこの時、友一の顔を見て、なんやこいつマンボウみたいな顔しやがってと思ったことを覚えている。

りょうが「なんだ」

友一「なんで殺すの?」

りょうが「そりゃあ…」

友一「命を奪う必要って、あるのかな」
確かに俺たちは今、命を奪う結果になる行いを考えている。俺たちが嫌いと言う理由なだけで、1つ、いや2つの命を奪おうとしている。人間の都合でだ。いくら虫と言えど生きている。それを人間の都合で殺すなんて、どうなのだろうか。

友一「俺たちと同じで、生きてるんだよ」
人や動物を殺すのはいけないことであるが、なぜ虫は許されるのか。同じ命のはずだ。

友一「共存って、できないのかな…」
一瞬の沈黙が生まれる。綺麗事かもしれない。虫程度、と思うかもしれない。それでも俺らと同じ命を宿す生き物だ。沈黙後、ほぼ同時に発言をする。

耕平りょうが「無理だろ」

 

泰一「絶対無理だ」
無理なのかよ。

りょうが「綺麗事抜かしてんじゃねえ。お前もやっちまうぞ」

友一「ひどい!ちょっとゴキブリもなんとか言ってよ!」

耕平「そうだぞ。それは言い過ぎだ。ってお前もひでえな!」
友一の綺麗事発言後、戦闘態勢を取り戻したかに思えた。

りょうが「でもまぁ今回は見逃してやるってことにしようぜ」

耕平「まぁ、そうだな」

りょうが「お前らも見つからないようにやれよ!次出たら容赦しないからな!」
ビビっていたくせに、威勢良く虫に語りかけ、荷物をまとめ始める。

りょうが「とりあえず、耕平んち移動だ」

ゴキブリを眺める。気持ち悪いな。気持ち悪いけど、俺はこいつらに悪さをされた覚えはない。これからの人生で幾度となく見ることになるであろうゴキブリ。共存なんてするつもりはない。友一は本気で、共存したいと思っているのだろうか。本気で、虫も人間と同じ重さの命を持っているって考えているのだろうか。そんな疑問を抱えて、俺たち4人は泰一の家を出る。

耕平「うち暑いけど、まぁ我慢してくれや」

りょうが「山は幾分か涼しいし、ゴキブリいるよりはマシやろ」
こうして、俺たち4人はりょうがの車へ乗り込み、俺の家へ向かうのであった。

泰一「共存無理だって」