僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

マラソン大会後編-ANOTHER STORY-

 

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俺は知らなかった。知らないことなんてたくさんある。この世の理、知っていることの方が少ない。

当時は決して付き合いが良いとは言えなかった泰一。しかしここ最近はそれよりもどうも付き合いが悪い。

 

泰一「疲れてる」

 

そう言われれば誘いづらくなってくるものだ。

 

 

友一「泰一好きな人できたんだって!その人ね」

 

りょうが「おい」

 

耕平「なに」

 

りょうが「いや別に。夜食買いにコンビニ行こうぜ」

 

 

1時間前に届いていたメールに返信をする。

『風呂入ってた。寝るね。おやすみ』

 

 

付き合いが悪くなったとは言えども、学校では普段通りである。挨拶をすれば返すし、いつも通り独特な世界を持っている。昼飯もいつも通り一緒に食べる。だから俺は特に気にしてはいなかった。帰る時も一緒だ。

 

友一「土曜日どうする?耕平の家?泰一の家?」

 

泰一「すまない。土曜も無理だ」

 

耕平「んじゃうちでいいよ」

 

泰一はどうしたのだろう。軽く思いつつも、重く心配をしない。

 

 

またある日、メールが届く。

『今度の土曜日、暇?』

メールを返信する。

『ごめん。予定入ってる』

 

俺だってそこまで鈍感じゃない。この女子が俺に好意を寄せているということくらいはわかる。でも、だからって、どうするかとか考えてはない。

 

りょうが「なーに携帯いじってんだよ。どうせあの子やろ」

 

耕平「そうだよ。お前と違って俺モテるからな」

 

池田「いやどう考えてもりょうがのがモテるだろ」

 

友一「そうだね」

 

耕平「そうだな・・っておい!確かにそうだけどそこはさ、ね?」

 

友一「だって耕平の顔とりょうがの顔じゃ天と地下の差だもんね!」

 

耕平「地より下かい」

 

マラソン大会当日、俺はその子から直接激励を受ける。

 

「頑張ってね」

 

手を挙げ、適当に相槌をする。

 

 

こーちゃんに勝つのは難しい。それはわかっている。でもやれることはやってみようと思う。そう泰一は言っていた、と、川を眺めながら池田が言う。

俺たちは休憩することを前提で走っていたためそれなりのスピードでここまでたどり着いた。順位的には50位以内にはいるだろう。

 

池田「簡単なことじゃない。絶対に勝てない相手と戦うのに、勝つために練習するなんてこと。俺ならできないね」

 

耕平「なるほど。それで最近付き合いが悪かったってことか」

 

泰一は学校が終わり、毎日走り込みをしていたと池田から聞く。俺が早い早くない以前に、そもそも泰一は長距離が苦手である。だが俺はまだわからないことがある。

 

耕平「なんであいつ俺に勝ちたいの?」

 

りょうが「そりゃあ・・・」

 

一瞬、沈黙が生まれる。俺にとってはその沈黙の意味が全くわからない。もう良いと思う、そう友一が言い、りょうがが話し始める。

 

りょうが「お前のこと好きなやついるだろ?泰一は前からあの子の事好きなんだって」

 

つまり、このマラソン大会で俺に勝つことにより、少しは泰一のことを見てくれるのではないか、そう考えたりょうがは泰一にそれを提案。普通に勝負したら負けるのは目に見えている。それで、ピクニック作戦を思いついたらしい。泰一には内緒にしてあるとのこと。

仮にも前年度4位の俺より早かったとなればすごい快挙である。川で休んでる時点で俺より早いやつは山ほどいるが・・・。

 

耕平「そうなのか。それ俺に黙ってた意味あんの?」

 

俺は特別、その子に興味があるわけではなく、片思いをされていただけである。俺が好意を持っているのならば言わない理由になるが、そうでないのに秘密にされる意味がわからない。

 

りょうが「それはそれでお前気まずくなるんじゃねーの?それで素っ気ない態度取ったら今度はその子が可哀想だろ」

 

なるほどな。ただでさえ素っ気ない態度を取る俺が、友人が好意を寄せる人であれば尚素っ気なくなるだろう。俺じゃなくてもっと泰一を見ろと、そういったことを言っているに違いない。そうなってしまえば誰も幸せになれない。りょうがにしては立派な思考だ。

 

耕平「泰一はその子の連絡先知ってるの?」

 

りょうが「お前のを教えた時最初に教えた。その後間違えたっつってお前の教えた」

 

ずる賢い奴め。泰一はたまにであるがその子と連絡を取れているらしい。

 

友一「おにぎり食べようよ!」

 

程よく呼吸が整ってきたところで、4つのおにぎりを出す。3つはサランラップ1つはアルミホイルで包まれている。どう考えても、それが”当たり”である。

 

池田「友一だけじゃなくて俺らもわかるんだが」

 

友一「嘘でしょ!?なんで!?」

 

池田「なんでって違いがあるの1つだけじゃんw」

 

友一「こりゃたまげた!」

 

池田「そりゃこっちのセリフだわw」

 

こうして、じゃんけんでおにぎりを決めることになった。もはやロシアンおにぎりなんてものではない。ただの罰ゲームだ。

 

なんでこんな目に合うのだろうか。なんでロシアンおにぎりなんて思いついたのだろうか。悪魔的な表情を浮かべる3人の前で”当たり”のおにぎりを食べる。友一の母親が作るおにぎりは絶品だ。おにぎりなんて変わんないだろ、そう思うかもしれない。俺もそう思っていた。しかし何の違いだろうか、塩加減、米の硬さ、握りの強さが全て完璧で、初めて食べた時に感動したことを覚えている。しかし今俺の口の中にあるのは、完璧な米の硬さ、完璧な握りの強さ、そして完璧なタバスコが入っている。もう加減なんてものを知らない、なんで生まれてきたのかわからない食べ物である。

 

耕平「水くれ!」

 

りょうが「目の前にたくさんあるだろww」

 

耕平「バカか!」

 

と、言いつつも川の前まで走っていく。

 

池田「そんなにやばいのか?確かにこのおにぎりもほんのりタバスコ臭するけどw」

 

耕平「もうタバスコ食ってるって感じだわw」

 

友一「ははは!入れたの俺だもん!!」

 

耕平「お前覚えとけよ」

 

悶絶していたタイミングで同じ体操着を来ていた2人組がこっちに走ってくる。一瞬警戒をしたが、それが翔平と泰一であることに気づく。

 

泰一「どうした」

 

心配そうな表情で泰一が話しかけてくる。もう折り返したのであろうか、額に汗、手には青のペンで印が付いている。説明するのも億劫であるが、笑いながらりょうがが説明をする。

 

翔平「ほらだから言ったじゃん。どうせしょうもないことだって」

 

泰一「そうか、それならそれでよかった」

 

少し安心しているようだ。泰一なりに頑張っている。それは汗の量を見ればわかる。翔平がペースメーカーなのだろうか、理由を知っていそうな表情をしている。

 

りょうが「良いから早く行けよ。寄り道してる暇なんてねーだろ」

 

翔平「俺はわかってたよ。くだらないことだって。でも泰一がもしかしたらって大変かもしれないって言うからさ」

 

翔平の言っていることが事実かどうかはわからない。ただ、泰一にとって対戦相手である俺の心配をしてくれていたのだ。普通に勝負して絶対に勝てないであろう俺の心配をしてわざわざ止まったのだ。俺はそんな泰一を眼中に入れていなかった。毎日走っていたことは知らなかった。知ってたとしても変わらず相手ではないと思っていただろう。だが泰一は本気で走っている。決して早くはないが、本気で精一杯の力を振り絞り、ゴールを目指して走っている。本気で向かってくる相手、ましてや友達に本気で応えないでどうする。

 

りょうが「もう俺達の仕事は終わりや」

 

りょうががポツリと吐き出し、俺は立ち上がる。

 

耕平「いいか、今から俺は本気でお前を抜きに行く」

 

折り返し地点までおよそ1km。つまり差は約2km。俺は残り6km、泰一は残り4kmと言ったところだろうか。

 

泰一「望むところだ」

 

お互い少し笑う。りょうがや友一、池田も笑っている。

 

りょうが「泰一負けたらすね毛パーマかけるからな!」

 

友一「耕平今口の周り辛いからチャンスだよ!」

 

翔平「いざとなったら俺が耕平道連れにするから安心しとけ」

 

残念ながら俺のスポンサーはいないようだ。無言でそっと池田が俺の肩を叩く。いや、1人いたみたいだ。

 

こうして再びレースが始まった。意気揚々と折り返し地点に向かう。なんだか気分が良い。改めて友情に触れて、改めて仲の良さを実感できて、

―久しぶりに心の底からみんなで笑えた気がする―

 

それとは裏腹に体調は最悪だ。

口の周りは辛いし、胃が熱いし、もう汗掻いてきたし。しかしそんなことはどうでもいい。俺は今、泰一と真剣勝負をしている。ただ、泰一に勝つことだけを考える。変な体調にも慣れてきたところでペースを上げる。俺は1.5kmを5分を切るペースで走れる。走れるが、めっちゃ疲れるから滅多に本気を出さない。だが今は本気である。

 

結果的に残りおよそ1kmのところで泰一の背中が見えた。そのままペースを落とさずにゴールをした俺の勝ちである。

 

ゴール地点にその子はいた。笑顔で手を振り2つ持っていたタオルを1つ手渡す。

 

「お疲れ様」

 

耕平「ありがとう」

 

続いてゴールをした泰一。膝に手をつき肩で息をする。

 

「お疲れ様」

 

泰一「・・・」

 

甘い香りのするタオルで汗を拭いながら、泰一を眺める。俺の視線に翔平が気付き親指を立てる。しっかり見てもらってるじゃん。

 

3人で日陰に腰を下ろす。タオルを見てニヤニヤとする泰一。そんな泰一を見てニヤニヤする翔平。どっちも気持ち悪い。続々とゴールする生徒たち。汗1つ掻かず、例の3人もゴールをする。

 

翔平「おつかれ!」

 

池田「はー!やっぱ10kmはなげーって」

 

伸びをし、教室へ向かう。歩きながら、折り返し地点で先生に本気で走れって言われたとか、リュックバレたとかどうでもいい話をしている。似合わないピンクのタオルを持つ泰一を見て、わかってるのかな。

 

泰一「そうだ」

 

半歩後ろを歩く泰一が言い、振り返る。

 

泰一「今日、みんなでご飯行こうよ」

 

そうか、もう走らなくて良いんだもんな。またみんなで遊べるな。俺たちは笑顔で顔を見合わせる。そして泰一に視線を移し、同時に言う。

 

一同「疲れてるから今日は無理だわ」