僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

童貞の何が悪い

波に揺られ、強い日差しを体全体で感じている。手を広げ、足を広げ、閉じているのは瞼だけである。
隣ではイカダまでカナヅチの池田とりょうがを浮き輪に乗せ引っ張って来たにも関わらず、元気に話す友一がいる。当たり前であるが、池田とりょうがは体力が有り余っている。体力が有り余っているが、泳げないために使うところがない。池田に関しては、最初から疲れた表情をしている気もするが、いつものことである。りょうがは、仁王立ちをし、自分が泳いだ距離を見て、良くやった、そう背中で語っている泰一に飛び蹴りをかまし、海へ落とす。
爆笑する一同に対し、怒っているのか怒っていないのか良くわからない表情でイカダの上に戻る。戻ったところで始まるいつもの物語。

りょうが「とうとう始まりました!第28回、飛び込み大会!実況は私りょうが、そして解説はこの方をお呼びしました!」

ゴーグルをマイク代わりにし、池田の肩を叩く。

池田「え?俺やんの?無理だよそういうの」

りょうが「じゃあ飛び込むのか?」

池田「どうも前回大会に引き続き解説は私池田です!」

耕平「めっちゃサマになってるやん」

幸いにも、人の少ない海水浴場であったために、イカダの上は貸切であった。人気のない海水浴場にも関わらず、イカダまでの距離は結構あり、俺はすでに帰りの心配をしていた。
おそらく、俺が飛び込み大会とやらに参加させられる可能性は100%を軽く超えているだろうが、残りの0%の可能性を信じ、巻き込まれないことを願っていた。

りょうが「まずは選手に意気込みを聞いていきましょう!では現場にいるりょうがさん!」

りょうが「はいはい〜それでは聞いていきますね!まずは友一選手!」

友一「はい!前回は優勝できたので、今回も優勝できるよう頑張りたいです!」

前回優勝してるのかよ。歯を輝かせ、親指を立てる。凄まじく爽やかな笑顔で、他を寄せ付けない。前回優勝しただけある自信に満ち溢れた表情だ。

池田「さすが前回予選敗退の選手だけあって、気合だけは十分ですね」

どっちだよ。設定あやふやじゃねーかよ。

りょうが「次に前回優勝した泰一選手!」

優勝したの泰一なのかよw

泰一「華麗に飛び込むことは、考えていない」

りょうが「…と、言いますと?」

泰一「気持ちで飛び込む」

何言ってんだよこいつ。

池田「やはりチャンピオンは違いますね」

りょうが「さて、では耕平選手!」

やはり来てしまった。でもまぁ、飛び込むくらい容易い。仕方ないがここは付き合ってやろう。

耕平「飛び込み、すなわち水の中に飛び込む。俺は鋭く、まさに水を刺すかのように飛び込み、そして見ている人みんなの心に、良い意味で、水を差すような、印象に残るような飛び込みをしたいです!」

池田「と、意味不明な供述をしている模様です」

りょうが「現場からは以上です」

耕平「おい」

気持ちの良い青空だ。水で冷えた体に強い日差しは冬のストーブを思い出す。前回大会で順位の低い人からとのことで、なぜか俺からのスタートとなる。友一より下ということか…。

 

りょうが「ではまず、最初の選手の紹介です!」

 

池田「彼はニュージランド代表です。どうやらモンゴルとアフリカのハーフらしいです」

 

耕平「なんでそれでニュージランド代表なんだよw」

 

ブツブツと言いながら適当に飛び込む。俺はガキの頃幾度となく腹から飛び込んだことがある。中途半端に 恐怖心を抱くと腹から飛び込むことになり、激痛を伴う。水面から顔を出し、彼らの方を見る。

 

耕平「どうだ。中々美しいだろ」

 

友一「耕平にしてはやるじゃん!」

 

まさかの対戦相手からお褒めの言葉をもらう。

 

りょうが「得点が出たようです。池田さんお願いします」

 

池田「よくわからないですが、どうやらドーピングを使っていたようです」

 

耕平「使ってねえよwなんで飛び込むだけなのにドーピングするんだよw」

 

りょうが「それに顔がキモいですね!」

 

耕平「それ関係ねえだろ!」

 

池田「それを踏まえて、9点です!」

 

耕平「満点はいくつ?」

 

池田「100点です!」

 

ひどい点数だ。イカダに上がり、頭を振って水気を飛ばす。

 

友一「9点って俺が高校生の時のテストの平均点と同じだよ!」

 

つまり、学年でビリの点だ。これは勝つのは難しいだろうな。と、思いつつも自分の番が早々に終わったことに安心をする。ドーピングって何のことだろう、朝モンスターを飲んでたけどそれのことかな。そんなこと言ったら友一もレッドブル飲んでたけど。

 

りょうが「それでは次の選手です!」

 

池田「彼はスコットランド代表です。どうやらモンゴルとアフリカのハーフらしいです」

 

耕平「だからなんでそれでスコットランド代表なんだよ。しかもなんだよ、俺の生き別れの兄弟かよ」

 

手を挙げ、勢い良く飛び込む。さすが水泳を習っていただけあって勢いとは比例しない水しぶきの量だ。バカがこんなにも美しく飛び込めるのはなんというか、ギャップである。水面から顔を出す。

 

りょうが「さぁ非常に美しい飛び込みでした!点数はいくつでしょうか!」

 

池田「4点です!」

 

俺の雑な飛び込みよりも低い点数が出た。納得のいっていない表情のまま池田に問いただす。

 

友一「なんでよ!耕平のが顔キモいじゃん!」

 

耕平「そっちかよ!そっちなら俺のがまだマシだろ!!」

 

池田「坊主で減点96点です!水泳帽を被った時に帽子を貫通して髪の毛が出るからです!」

 

りょうが「いたよなそういうやつwさぁトリを飾るのはこの男!」

 

重そうに腰を上げ、立ち上がる。背中には先程友一が付けた鼻くそがついている。恐らく泰一も俺と同じく参加したかったわけではないだろう。それでも何も言わずに参加した。腰に手をあて、仁王立ちをする。太陽を浴びるも、光合成ができないためか身長は低い。

 

泰一「悪いが、優勝は俺が貰う」

 

池田「紹介は不要だと思いますが、前回の優勝者、そして童貞界代表の泰一です」

 

りょうが「全国の童貞の思いを込めての飛び込み、ということですね」

 

親指を立て無表情で、そうだ、と返事をする。24歳童貞。童貞なんて恥ずかしいものでも何でもない。ただ、運が悪かっただけだ。奥手な泰一に、何度も友一は指導したことがある。女の子の前で、全身全霊でボケる友一に泰一は何も言わない。ツッコみやすいようなボケをかますも、泰一は何も言わない。それでも友一は何度も挑戦し、何度もスベッてきた。

りょうがは何も言わず、ただ見守ってきた。男を決めるのはそんなくだらないことじゃない。1つ誰にも負けたくないものがあれば、それでいい、そう言う。

池田は、俺も仲間だから安心しろと、泰一と同じく童貞界を支えてきた。

 

友一「最高の飛び込みを見せてくれ!」

 

期待が高まる中、飛び込む。誰よりも雑に、誰よりも汚く、そしてお腹から飛び込む。水面から顔を出し、髪を掻き上げる。

 

りょうが「・・・点数が出たようです!」

 

注目が集まる中、最後の選手の得点が出る。

 

池田「童貞でボーナスポイント100点!優勝です!」

 

耕平友一「チートじゃねえか!!」