僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

死にそうになった話


池田が見つけた小洒落た居酒屋にてお酒を嗜む。俺と友一と池田は休みがよく合う。そして仕事終わりのまま、スーツを着た泰一も合流した。
割と静かな店内、女性客が目立つ中、もうあと数年でおじさんと呼ばれる俺らは店には似合っていなかった。いつも通りの調子でいくと、浮くことは間違いない。飾りの絵を見て、これってもしかしてエジソンの絵かな?と言っている友一の流れに乗らないためにも唯一無二の平凡な俺が会話の主導権を握らねばならないと、直感的に感じ取る。

耕平「実は最近、死にそうになった話があるんだ」

咄嗟に出てきた話題がこれである。周りの客は上品そうな女性客が多いからか、小声で会話をしている。その雰囲気に見合った話題、それが死にそうになった話。あまり大きな声で話すものではない話題、それが死にそうになった話。
好きでもないワインを飲みながら話し始める。

耕平「この前、買い物行くのに電車に乗ってたんだ。普通の電車内。ガタンゴトンの音しかしない電車内にいきなりドンッ!って鈍い音が鳴ったのよ。何事か一瞬わかんなかったんだけど、俺の視線内の人たちがみんな俺の方を見ててさ、それで俺の列に座ってた人たちも後ろを見て、俺もそれにつられて後ろみたらガラス1面にヒビが入ってる。すぐ立ち上がって離れたんだけど、どうやら悪戯で石投げたみたいなんだよね」

池田「もしガラスが割れて、いやもし石が頭にでも直撃してたら…」

耕平「…そうなんだよ」

池田「…メシウマだったのにな」

耕平「…」

そう言い、俺と同様好きでもないワインをゴクゴクと飲み、おしぼりで口を拭う。なぜだろう、すごく美味しそうに飲んでいる気がする。

友一「それで?」

耕平「いや、以上だけど」

友一「いや、オチは?」

耕平「えっ?」

友一「耕平いつも言ってるでしょ?話の肝になるのはオチだって!どんなにつまらない話でもオチさえよければ全てよし!って」

池田「それを言うなら終わりよければすべてよしだけどな」

耕平「オチは石が飛んできた。これじゃダメ?」

友一「ダメだよ。そこは死ななきゃ」

耕平「それじゃあ死にそうになった話じゃなくて死んだ話だろーが」

そう言い、同じく好きでもないワインを飲み干す。そして満面の笑み。なぜだろう。こいつら俺が危険な目にあったと言うのにそれをつまみに好きでもないワインを美味しそうに飲んでやがる。

泰一「死にそうになった話か。俺もあるぞ」

俺のタバコを手に持ち、話し始める。もちろん禁煙者のため火はついていない。ちなみに言うと、格好もついていない。

泰一「これは、小学生の時の話なんだが、学校の近くに蜂の巣があったんだ。当時悪ガキだったこーちゃんに、見るだけだから、そう誘われてその蜂の巣まで行ったんだ」

池田「先っぽだけだから、みたいな誘い方だな」

泰一「現地に到着し、見ていると当たり前のようにポケットから輪ゴムを出して巣を攻撃し始めたんだ。そして俺らは蜂に追いかけられたと言う話だ」

耕平「懐かしい話だな」

池田「可愛らしい話だ。アシナガバチとか?」

泰一「いや、スズメバチだ」

池田「基地外かよ」

耕平「俺はその時スズメバチの恐ろしさを知らなかったからな。今だったらちっこい蜂の巣を見ただけでも発狂もんだわ」

こうして小洒落た居酒屋で死にそうになった話に花を咲かす。上手いこと主導権を握れている。

池田「死にそうになった話ってのはないけど、職業柄危険はつきものだ」

そう言い、板前は語り出す。

池田「いかんせん、刃物を扱う。例えばストレス溜まって、疲れ溜まって、ありとあらゆるものが溜まりに溜まって、そんで怒り狂って刃物を振り回すなんてことになったら死に兼ねない。つまり、毎日命がけと言うことだ」

耕平「いやそれお前やん」

池田「バカめ、お前ら職場の奴ら、そう言いたまえ」

友一「板前だけにね!」

池田「何上手いこと言ってやったみたいな顔して上手いこと言ってんだよ。まずはお前からやんぞ」

泰一「今日の池田はジャックナイフのように鋭いな。板前だけに」

耕平「どこが板前と繋がったんだよ」

ここまできたところで友一に視線が集まる。この流れは必然であり、それは友一もわかっている。

友一「うーん、うんこ漏らしそうになった話でもいい?」

耕平「いやダメだろ。なんで流れぶった切った上に食事中にそんな下品な話しようと考えるんだよ」

友一「じゃあうんこ漏らした話は?」

耕平「漏らしそうになった話がダメなんだから漏らした話はダメに決まってんだろ。てか漏らすなよw」

友一「じゃあ鳥のフン頭から被った話は?」

耕平「それお前じゃなくて翔平だから」

酔ってるからなのか何なのか原因不明だが、うんこの話をしたがる。うんこの話を楽しめるのは小学生までだ。友一漢字ドリルもヒットするかもしれない。
思い出したかのように友一が手を叩く。

友一「あ!思い出した!」

池田「言いたまえ。板前だけに」

耕平「何気に入ってんだよ」

友一「小学生の時の下校中にね、突然、なんの前振りもなく、ほんとに突然、腹痛に襲われたのそれでね、、」

謎のタメが入る。ワインをちまちま飲みながら、話の続きを待つ。一人一人の目を見る。アイコスの電源を入れ、一口吸う。そして、話を進める。

友一「うんこ漏らしたの!」

呆れる俺と池田と違い、ワインを吹き出す泰一がいた。

お前も小学生かよ。