僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

ブラジルカップ

 

小学6年生の頃の話。俺はサッカーを習っていた。俺の入っていたチームはそこら辺では最弱で有名なチーム。正確に言うと、それなりに強いチームであったが、なぜか俺らの年代だけ弱く有名だった。個々で上手いやつは何人かいたが、適当にやっているやつが大半を占めていた。

そんなある日、大会に招待された。大会自体は毎週のように開かれていたが、その大会は少し変わっていて、参加チームの半分がブラジル人によるチームだった。大会名は『ブラジルカップ』

恐らく、日本へ遠征に来たのだろう。さすがサッカー王国だ。年代は俺らと変わらないが、その年代で海外遠征だなんて、相当な実力のチームなのだろう。

俺らのチームのキャプテンを見ると、笑っている。彼は相当な実力の持ち主で、あくまでも俺目線だが、県内で見ても10本の指には入るほどに上手かった。このチームにいるのが本当にもったいない存在だった。それでも前向きに、自分の実力に自惚れずに誰よりも練習をしていた。

 

「こーちゃん、楽しみだね」

 

チームとしてではなく、個人で本場のサッカー王国の少年たちを相手に実力を試せる事を楽しみにしているように見えた。他のチームメイトを見ると、案の定ビビっている。それでも、俺やキャプテンを含めたやる気のあるやつらは奮い立っているように見えた。

 

トーナメント表を確認すると、1試合目は日本のチーム対ブラジルのチームの組み合わせになっていた。こんな機会は滅多にないだろうから、必ずブラジルのチームと当たるように組んだのだろう。俺たちのチームは1回戦の最終試合だった。

居ても立っても居られなかったのか、キャプテンがやる気のあるやつらに声を掛け、先に場所を移動しアップを始める。そのメンバーは俺を合わせて4人。11人中4人しかやる気のあるやつがいないのだ。ポジションは1人がキーパー、1人がセンターバック、俺がトップ下でキャプテンがトップのため、実質、動けるのは3人だ。

体を動かすと、緊張感が高まってくる。いつもと違う感じだ。他の国の人達とサッカーをする。それだけでこんなにワクワクするものなんだな。

 

時間が経ち、監督が他のメンバーを連れてやってくる。一旦集合し、監督が話し始める。

 

監督「いいか、お前たちは今日、日本代表だ」

 

日本代表。小学生の俺たちにとっては夢である言葉だ。

 

監督「相手はブラジル代表だ。ブラジルを代表して、日本へやってきている。俺は勝てとは言わない。でもな、遥々地球の裏側からわざわざ来てくれたんだ。そんな彼らに、失礼のないような戦いをしてほしいと思っている」

 

いつもより真剣に話しているような気がする。いや、監督はいつだって真剣だ。でも、俺たち子供のことを考え、とにかく楽しんでこいと言うような人だった。それが今回は全力で戦ってこいと言った。

 

そんな監督の言葉を聞いて、やる気のないやつらも目を輝かせる。日本代表という言葉が響いたのか、わざわざ来てくれたと言う言葉が響いたのかはわからない。わからないが、俺やキャプテン、他の2人と同じ、張り詰めた空気、緊張感を味わっているように思えた。

 

それが気のせいでないことは、キックオフ前のエンジンを組む段階でハッキリとした。いつもはふざけるエンジンだったが、誰もふざけない。

エンジンの言葉は昔から『絶対勝つぞ!』『おー!』という可愛らしいものだったが、監督からの

 

監督「お前らそれで勝ったためしないだろ。行くぞ!おー!とかにしろよ」

 

というツッコミを受けてからはそれになった。心臓の鼓動が早まるのがわかる。それは俺だけではない。キャプテンの口から号令が出る。

 

「絶対勝つぞ!」

 

「おー!」

 

監督は勝たなくていい、全力でやれと言った。しかし勝ちにいかなければ、それは全力ではない。キャプテンから無意識に出た言葉、そして俺らも無意識に声を合わせた。みんなわかっていた。

笛が鳴り、試合が始まる。俺のやることは簡単だった。キャプテンへパスを出す。そうすれば勝手に決めてくれる。だが今回はそういう訳にはいかないだろう。監督からもらった背番号『10番』をつける俺へのマークは同じく『10番』をつける選手だった。実力はわからない、でも『10番』っていうのはつけてるだけで警戒される番号だ。そして、最も警戒しなければならない番号だ。

パスを受け取り、前へ向く。相手のエース番号をつける選手とのマッチアップ。普段ならパスを受け取りに来ない仲間が横から声をかけてくれる。そいつにパスをすると見せかけ、逆側へドリブルをする。

 

「よし!抜いた!」

 

後ろからエースが追ってくるのがわかる。ドリブルをし、相手のディフェンダーを抜いたところで違和感を覚える。

 

「こーちゃん!」

 

キャプテンに呼ばれパスを出す。キーパーと1対1の場面。いつものように華麗に抜きシュートを決める。

 

「ナイス!」

 

「いいぞ!」

 

俺も素直に喜びたかったが、妙な違和感を感じる。だがまずは試合に集中だ。

 

ボールが再び俺にくる。先程と同じく、横から仲間がパスを要求する。そして先程と同じフェイントを掛ける。

 

「よし!抜いた!」

 

そして相手のディフェンダーを抜いたところで違和感に気づく。

 

「こいつらめっちゃ下手くそやん!!」

 

その後も点を重ね、結果的には4対0で勝利を収めた。この勝利は実に久しぶりの勝利だった。それくらい、俺らは弱いチームだった。

喜びに耽けるメンバーを横目に、キャプテンと次の対戦相手を確認しにトーナメント表を見に行く。

俺はそこで衝撃的な結果を目の当たりにした。

 

ブラジルチーム、すべて1回戦敗退。