僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

救命処置

ストーブのついた部屋で、車の免許の講習を受ける。外は雪がぱらつき、東北らしさを見せている。ビデオを観ながら、これから人命救助の演習をやるようだ。
当たり前のように山形弁で話す先生、俺の横の席ではもはや眠気と戦うことを諦め、机に伏せて眠る友一。ここは俺がしっかり聞いておかなければあとあと面倒になる。それくらいわかるようになってきた18歳の冬の話。


先生「それじゃあビデオで観た通り、実際にやってみよう」


そんなニュアンスの山形弁を話す。3つのグループに分かれて、練習をする。その後、1グループずつ順番に実践するようだ。俺のグループは、俺と友一、静岡からやってきた女の子(以後静子)と、制服で通う地元の女の子(以後ロナ)。静岡から来た子は、隣の県ということもあり少し話をしていたが、山形の子は話したことはなかった。話したことはなかったが、友一と彼女のことをロナウジーニョと呼んでいた。ごめん。本当ごめん。


先生「じゃあ各チーム実演する役、協力する役を決めて始めてくれ!」


実演、静子もロナも視線をそらす。女の子がやりたがることでもないしな。仕方ない。んで友一を見る。やる気満々。寝てたけど大丈夫か?目を細めるが、"任せて"、と胸を張る。


先生「それじゃあやってみよう!」


マネキンに近寄り、声をかける友一。念のためにテキストを広げ、友一の横に置く。


①周囲の確認
これは2次事故の防止を防ぐために行われる。手当中に自分が事故ったら話にならないからな。


友一「右よし!左よし!もう一度右!」


耕平「横断歩道じゃねえんだよ」


一応、声に出せと言われているが、そういうことではない。周囲の安全確認よし。程度でいいものだ。

②傷病者の観察
出血してるとか骨折れてるとか意識があるかとかその辺。動けないのに動かそうとして死んだり、症状が悪化しないように。


設定では、外傷なしで意識がないことになっている。


友一「外傷なし!」

テキストを眺めながら、次へ進む。


友一「意識の確認か・・・こんにちは!起きてますか!?」


耕平「こんにちはってお前緊急性皆無だな」


友一「起きる気配、なし!」


耕平「ぐっすり寝てる人みたいに言うな」


最初からかっ飛ばすがなんとかついていく。ふざけているのかそれとも真面目にやっているのか俺ですら判断ができない。


友一「意識不明の重体です!」


耕平「医者かて。そんな項目ねえだろ」


やめてくれ。もはや静子もロナも笑っている。俺らが、いや、お前が真剣にやらないと俺らが後で恥をかくんだ。


友一「えっと、」


耕平「協力者を求めるの」


友一「あ!そうか!」


静子に向かって言う。


友一「あなたは119番通報をしてください!」


静子「はい」


次に俺に耳打ちをする。


友一「ロナウジーニョはブラジルへ帰ってくださいって言っていいかなwww」


耕平「やめろふざけんなw」


友一「冗談冗談!」


今のを冗談と告白するなら、もしや今までのは冗談ではないのだろうか。先が思いやられる。続いて、ロナに向かって言う。


友一「あなたはLEDを持ってきてください!」


耕平「なんか照らすの?」


ロナ「はい」


耕平「いやはいじゃねーよ。なんなんだよ何照らすんだよ。手術?手術するの?」


③呼吸の確認
ここからが実際に学ぶべきところ。AEDの使い方だったり、心臓マッサージだったり。つまり、呼吸はしていない設定である。


友一「呼吸なし!」


心臓マッサージに取り掛かる。ここからは俺がやるため、なんの問題もなく進む。

 

さて、何度か練習を繰り返し、とりあえず俺が見て先生から合格がもらえる程までは流れができた。緊張せず、その通りにやれば平気だろう。


先生「じゃあまずは東京チームから!」


静子「静岡だって・・・」


前に出て、実践をする。


まずは周囲の確認だ。


友一「周囲の安全、よし!」


いいぞ。横断歩道を渡るのをやめて救助をするようになっている。続いて傷病者の観察。


友一「異常なし!」


異常あるから寝てんだろーが!異常なしなら解散だわぼけ!

とは言えるわけもなく、ツッコミを我慢して次へ進む。


友一「こんにちはー!起きてますかー!?」


なんで散々練習したのに最初のに戻るんだよ。カジュアルに話しかけすぎだわ死にかけてんだぞ。

とは言えるわけもなく、ギリギリツッコミを我慢する。


友一「起きる気配、なし!」


だ!か!ら!寝てるんじゃねーから!何が起きる気配なしだよ何企んでるんだよ。これには流石の先生も少し笑いを堪えている様子だ。

 

だが友一はふざけているようではない。長い付き合いだからこそわかる、真剣な時の目つきだ。
それなら、俺は見守るだけだ。もしも実際に、その現場に居合わせても友一はきっと真剣に救おうとする。出てくる言葉なんて関係ない。助けたい、その気持ちがあれば十分だ。

静子に向かって言う。


友一「あなたは119番通報をしてください!」


静子「はい」


よし、後一息だ。あとは俺の番、あと少し頑張るんだ。


友一「あなたはLEDを持ってきてください!」


耕平「だから照らそうとすんな!」


ロナ「はい!」


耕平「だ!か!ら!はいじゃねーよ!もうお前、ブラジル帰れ!」