僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

乾杯のビールやめない?

俺は高校生の頃、居酒屋でバイトをしていた。12月というのは俗に言う忘年会シーズンで、俺のバイト先も週末になると予約で部屋が全て埋まった。17時オープンの店で、学校が終わりそのままバイト先へ向かう。

16時。キッチンへ入る。紹介をしよう。

焼き場、コンロを使って料理をする。2名。

揚場、揚げ物を料理する。1名。

刺場、サラダや刺身などを料理する。1名。

そして俺が担当するドリンカー。1名。

 

それぞれ準備を始める。うちの店は、宴会コースが3種類ほどあり忘年会となるとほぼ全組宴会コースを選ぶ。焼き場を担当する池田は、予約のコースの下ごしらえをしている。揚場はあらかじめ揚げ物をして、準備をしている。刺場は野菜や魚を切っている。そして俺は、そんな彼らを眺めている。ただただ、眺めている。準備なんてものはない。心の準備くらいだ。

 

17時オープン。

 

「いらっしゃいませー!」

 

ホール担当が元気よくお客様を迎える。ホールは閉店前に次の日の準備をしているため、16時からは主に掃除をしたり、予約の確認をしている。

あっという間に全ての部屋が埋まる。200人ほど入る店だ。キッチンのメンバーは出来上がった料理をホールの人へ渡す。そして俺もここからは仕事が始まる。

ピーという音と同時に、注文されたドリンクの伝票が飛んでくる。

 

17時10分

『部屋番号1 生ビール25』

 

ちょっと待って~。

 

『部屋番号2 生ビール50』

 

はいはい~。ちょっと待ってね~。

 

『部屋番号3 生ビール 100』

 

はいよ~。

 

機敏な動きで生ビールを注ぐ俺。知ってるよ。最初はビールで乾杯なんでしょ?高校生だけどそれくらいは知ってるよ。でもね、うちね、ビールサーバー3つしかないの。だからちょっと待ってね。1時間くらい

 

世話しなく動く俺に、あとは料理を提供するだけの暇そうな池田が声をかけてくる。

 

池田「なんかね、ビールを注ぐ検定みたいなのあるんだって」

 

なんでこの状況でそれ言うの?もはやキッチンで仕事をしているのは俺だけ。というより、仕事が終わっていないのは俺だけ。みんな各々に談笑したり、仕込みしたりしてる。そんな中、ホールの女の子が走ってくる。

 

「ビール急いでください!」

 

耕平「多分今俺全力」

 

そりゃあそうよ。そんなドヴァって出てきたら泡まみれになって違うお店になっちゃうし、お前そんな可愛くないやん。そりゃ誰も喜ばないよ。だから俺はね、せめて美しくビールを作りたい。集中してビールサーバーと向き合う。もう1人の女の子が走ってくる。

 

「ビールはまだか。だってけど」

 

お前ら週末毎回同じこと聞くやん。見ろよこれ。どうするよこれ。店として改善していこうよ。あるいは乾杯のビールをやめて乾杯のウーロンハイとかにしなようよ。それなら一瞬で提供できるよ。なんなら、席ついたらもうお通しのごとく出せるよ。

 

 

 

でね、さすがにクレームが多かったみたいで、乾杯は瓶ビールでお願いするようになった。店長もちょっと俺を不憫に思ってたらしくて、改善しようって思ったらしい。おせーよつって。たまに店長手伝ってくれたけど、ドリンカーのブースクソ狭い上に店長太ってたからただただ邪魔。ビールサーバーの後ろに置いてあるジョッキを俺に渡してくれてたんだけど、すごく邪魔。提供のスピード2秒くらいしか変わってなかった。しかもそれ2秒遅くなったってことね。

システムが変わって、最初は瓶ビールになっても、お客さん誰も文句言わない。いい客だ。お酌とかも大切だもんね。瓶ビールシステムに変わった日、俺はそう思ってたよ。でも違った。

 

開始と同時に飛んでくる大量のドリンクの注文が、30分遅くなっただけだった。

 

17時40分

『部屋番号1 生ビール25』

 

ちょっと待って~。

 

『部屋番号2 生ビール50』

 

はいはい~。ちょっと待ってね~。

 

『部屋番号3 生ビール 100』

 

はいよ~。つって

 

 

なにこれ。