僕らの現実非日常?

誰かこのロマンティックを止めてくれ

限界突破

2020年、待ちに待ったオリンピックが開催される年、同時に世界を揺らすニュースが発表された。そう、エヴァンゲリオンの新作映画である。エヴァ知名度は成人男性なら100%だろう。ストーリーだけでなく、キャラクターの個性、そして楽曲、全てが最高レベルの作品である。もちろん俺もエヴァが大好きで、アニメも映画もすべて鑑賞済みだ。Qに関して言えば、最初から考えさせられる展開で瞬きすら許されなかった。

そのQを観に行った時の話。当時付き合っていた彼女と鑑賞をしに行った。前日に序と破を見て、復習は完璧だった。開始はいきなり戦闘シーン。なぜこうなっているのか、それは後出しで告知されると予想した。復習を活かし、なぜこうなったのか、そしてこれからどうなるのか個人的に予想をした。ポップコーンを差し出してくる彼女に真顔で集中して見ろと、オタクを隠さず披露する。と言っても誘われた側であるが。

開始10分ほどでシンジが目を覚ます。主人公が目を覚まし、当たり前のように物語が進展する。その時、俺は大きなミスを犯したことに気づく。そう、おしっこをし忘れた。シンジが目を覚ましたと同時に、俺の尿意も目を覚ました。やべえ、素直にそう思った。なんか唇プルプルの新キャラ出てきてるし、リツコイメチェンしてるし、ミサトキャラ違うし、本当に一瞬たりとも目が離せなかった。目が離せなかったが、頭の中では90分間この猛烈な尿意を我慢できるかを考えていた。

 

無理だ。コーヒーなんか飲むんじゃなかった。今ならまだ平気かもしれない。そう思った。だがエヴァは待ってくれなかった。新しい要素がどんどん出てくる。続編と謳っているが、本当にそうなのか、そう考えるほどにすべてが違っていた。それと同じく尿意も待ってくれなかった。シンジが目を覚まし、なぜこうなっているのか戸惑う様子を描写している。俺はなぜこうなっているのか明確だった。コーヒーをがぶ飲みしたからだ。急げば大丈夫。そう思い、立ち上がろうとする。その瞬間、彼女が俺の手を握る。映画を見ながら手を繋ぐなんてどんだけラブラブなんだ。俺はあまりいちゃつくのは好きじゃない。だが彼女は力強く手を握る。そして小さな声で言う。

 

彼女「逃げちゃダメだ」

 

うるせえ。逃げじゃねえよ。序盤なのにもう俺の尿意は暴走モード突入だよ。猛烈な尿意のせいで、内容が全然頭に入ってこない。考察しながら見るなんてできたもんじゃない。なんなら、オムツ穿いてくればよかったって思うくらい。小さな声で言う。

 

耕平「ちょっとトイレ」

 

彼女「逃げちゃダメだ!!」

 

逃げじゃねえって!膀胱という名のATフィールドを破壊しに来る。一旦、我慢する術を考えることに集中する。少ない知識の中で浮かんだワード。”毒を以て毒を制す”、俺はこれを実行すべく、自販機で買ったブラックコーヒーを一気飲みする。飲み終えたところで気づいた。これは毒じゃなかった。焼け石に水だった。シンジならこの状況、どうするだろうか。ストーリーそっちのけで考える。シンジならきっと、こう思うだろう。”逃げちゃダメだ”。

 

結局かよ。結局我慢かよ。だが俺の経験上、尿意は我慢すると、リミッターが外れてしばらく我慢することができる。体に悪いかもしれないが、リミッターを解除するしかない。しかし一向にリミッターの解除が訪れない。理由は明白、さきほど毒を以て毒を制したからだ。毒に溺れている。もうロンギヌスの槍で蓋をしたい。

 

耕平「ちょっと、ビーストモード入りそう」

 

彼女「ばっかじゃないの?」

 

なんで今日アスカっぽいの?俺がここで漏らしたらお前、おもらし男の彼女ってあだ名付けられるぞ?アスカ的にそれは許せないんじゃないの?息をすれば少し出てきそうなくらいまで来てる。ここまで我慢したのは初めてだ。今、俺は俺自身の限界を超えている。もうこれ以上は無理だ。一旦尿意を忘れ、とりあえず映画に集中してみよう。

 

みんな必死に戦っていた。

 

各々が何を考えているのか、なんのために戦っているのか、それはわからない。アニメと言えど、キャラクターは生きている。各々が自分の信念のために戦っている。弱虫なシンジも、”逃げちゃダメだ”そう言い聞かせ、戦っている。 

 

そんな中、俺はなんなんだ。命がけで戦っている子供たち、それに比べ、たかが尿意に逃げようとしている俺。

 

―俺も戦わなければならない。そう思った。

 

戦った。必死に戦った。彼女の手を強く握り返す。

 

耕平「逃げるわけねえだろ」

 

彼女「それでこそ、私の彼氏だ」

 

いや、冷静になんだよこれ。お前暗闇で一人になるのが怖いだけだろ。こっちはちっとも怖くないのにちびっちまいそうだよ。

 

バカバカしいと思いつつも、俺は我慢を続けた。と言いつつも、本当に興味深い内容で、色々考えながら観たいと思った。だが終盤に進むにつれて、頭の中は”無”だった。何かを考えてしまえば、人生が終わる失態をする状況だった。

 

気づいた頃にはエンディングに入っていた。俺は急いでトイレへ向かい、極上の至福を味わった。天国だった。自分を褒め称えたかった。

 

歩きながら、ポップコーンをつまむ彼女が感想を聞いてくる。

 

彼女「どうだった?」

 

俺は最高の笑みで答える。

 

耕平「最高だったぜ」